サッカー元日本代表、羽生直剛が感じたサッカーとビジネスの共通項

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羽生直剛
株式会社Ambition22代表取締役
1979年12月22日生まれ。千葉県出身。2002年に筑波大学からジェフに加入し、オシム監督に重用されてレギュラーに定着。2006年に日本代表に初招集され、2008年までに国際Aマッチ17試合に出場した。その後、FC東京、甲府でプレーしたのち、2017年にジェフに復帰。翌年に引退し、FC東京の強化部スカウトを経て、現在は自身が立ち上げた株式会社Ambition22の代表を務める。(株式会社Ambition22HP:https://ambition22.co.jp/

プロサッカー選手の引退後のキャリアとは

− まずは現在どんなことをされているかも含めて改めてですが自己紹介をお願いします。

千葉県出身で、サッカーの強豪校だった八千代高校から筑波大学に入って、プロではジェフ千葉に入り、日本代表にもその時に選んでもらいました。その次はFC東京へ移籍して、一年間だけレンタルでヴァンフォーレ甲府というチームでプロサッカー選手としてプレーしていました。引退後はFC東京のスカウト担当ということで、いい高校生や大学生をクラブに招き入れるという仕事をして、その後自分で会社を作って今に至ります。FC東京とは今も仕事をしており、事業部でスポンサー周りのことをしていたりします。

自分の会社では、スポーツやアスリートの価値をもっと活かして、社会に貢献したり恩返しをしたいと思い、アスリートに社会性を持たせながら次のキャリアにつなげていく取組みをしています。

羽生さんは、特にプロサッカー選手のアスリートのセカンドキャリアにおいてどのような課題意識を持たれているんでしょうか?

サッカー選手についてで言うと、日本は結構恵まれていると思います。選手として一定の活躍をしたら、世間から見ればそれなりの収入も得られるし、その延長で何となくで歳を重ねていくということがあるんですよね。

選手を引退したあとは、監督やコーチになるというのが選択肢としてまずは出てくるんですが、その選択肢しかないとも言えます。

イメージとしてプロで活躍して、指導者になるというのが最高のキャリアだと勝手に思っていたんですが、そういう訳でもないんですか?

そういった声がかかるのは幸せなことでもあるし、ましてやそういった選択肢がない選手も多いです。

サッカーに関わり続けたいというスタンスであれば、それは素敵なことだと思いますが、サッカー以外に選択肢がなくてやっている場合は少し違うと思うんですよね。

だとしたら、自分の強みを言語化した上で、サッカーと同じくらい打ち込めるくらいの何かをしっかりと探しておくべきだと思います。

なるほど、指導者にならない人はどういう働き方をするんですか?

それが無理な場合は、結構大変で、ツテを辿って仕事を見つけたり、町のサッカーチームでコーチをしたりというものを選ばざるを得ないですね。

そういった意味では、さっきのように将来設計をしっかりしておかないといけないですね。

(ビジネスをするのに、)エクセル、ワードを使えないって「大丈夫か?」ってなると思いますが、最初の時点で歩み寄ろうとしないと厳しいかなと思います。アスリートが学んで社会性がないことを認めてここに向かう努力がないといけないと思います。

自分が活躍する場が変わる時にそこにしっかりアジャストする努力が必要というのはどの世界でも共通なのかも知れないですね。

あと、僕自身は周囲が使うセカンドキャリアという言葉に少し違和感を感じることがあるんですよね。

今こうやって自分で会社を設立した訳ですが、(サッカーとビジネスで)どっちがファーストキャリアでセカンドキャリアなのか分からないくらいの活躍することが出来ればいいなと思っています。

一方で、サッカーを長く続けてきて得たものが、ビジネスでも活きたからうまくいったと言えたらいいなと思ってます。

サッカー引退後にビジネススクールへ

− 今もサッカーとビジネスというワードが出てきましたが、以前話を聞かせてもらった際に、サッカーを通じて培ってきたことと大学院で学んだことがすごくリンクすると感じることがあったとおっしゃられていましたが、その辺りの話も聞いてみたいです。まず最初にですが、大学院に行くきっかけって何かあったんですか?

周りに紹介してもらったというのがキッカケです。筑波大学の同窓会のときに同期と話をしていて「尖った新卒」と同じといわれたんですよね(笑)

その時に、まずは社会がどう成り立っているのかとか、何が前提として置かれているのかという基礎的なところを効率よく学ぶ必要があるなと思い、グロービス経営大学院で勉強することにしました。

自分はどこか組織に属してというよりも、自分で会社をやった方がいいタイプだと思っていたので、よりそこが重要だと感じたというのもあります。

− 行ってみてどうでしたか?

すごく良かったですね。一般社会で活躍する人たちがいて、その人たちとの出会いもあったのでよかったです。自分の強みと弱みとかも分かるし、専門領域として自分自身がやるよりも誰かに任せる必要がある分野にも気付くことができました。

− なるほど、すごく良いですね。

プロサッカー選手の引退後のキャリアとは

サッカーでもマネジメントとビジネスにおけるマネジメントの共通点について聞ければと思うのですが、どういったところで感じたのでしょう。

(ジェフ)千葉でも日本代表でもオシム監督に引き上げてもらったんですが、その時にオシム監督から学んだことが、ビジネススクールで学んだ経営や企業再生のプロセスと近いなと感じたんですよね。

オシム監督は就任してから、まずは選手に危機感持たせる発言、振舞いがあって、そこから3ヶ月間ほぼずっと練習が続いて、今までの常識を一度全部壊すプロセスがあったんですよ。そして、哲学をすごく大事にしていて、自分の判断基準を毎日繰り返して話をして、浸透させていくという点が近いなと思いました。

また、オシム監督は自分の哲学、判断基準での動きを選手に求めるけど、それで負けたら自分が責任を取るという覚悟を持ったリーダーでした。千葉はすごい選手が沢山いるわけではなかったんですけど、『結果を残し』ながら『成長させる』ところ、このリーダーシップの取り方も一緒だなと思いました。

オシム監督は負けたとしても、哲学に基づいてプレーをして負けた時は、「お前たちの今週のサッカーはよかったよ」と言ったりもするんですよね。逆にオシム監督は、ただ勝っただけの試合の日は機嫌が悪かったりするんですよ。

− すごく本質的な話ですね。ただ、勝った、負けただけではなく、そこに至るプロセスをすごく重要視していていたんですね。

はい、チーム全体の話だけではなく、選手の評価においても同様です。

点を取るストライカーがチームの花形的なポジションですが、その点をとった人よりもその周りで支えた人を最初に褒めるんですよね。

例えば、ボールを持っている選手の近くですごい走り込みをした選手がいて、結果的にその選手が使われなかったとしても、ボールを持ってる選手が楽になるというシチュエーションがあったら、その走り込みをした選手をまず褒めてくれるんです。

結果としてボールを触らなかったんだけど、「お前の動きがあったから今このプレーにつながったよ」っていうのは、ずっと言ってくれてましたね。

だから、ボールを持ってなくても、「ボール回してよ」じゃなくて「(そのまわりで)いい動きをするぞ」ってなるんです。しかも、それを全員が分かってるからボールを持ってなくても、ボールを受けたいばかりではなく、考えて走るんです。オシム監督のチームは泥臭く頑張る人たちがモチベーション高くやれる環境でした。

− そこまで考えてプレイしてるんだと思うとちょっと感動しますね。

考えてプレー出来るようになったのはオシム監督の影響が大きいかもしれないです。それまではそのレベルまで考えていた訳ではないので。

オシム監督はファンの皆さんが試合を見ていて沸くポイントとは違うところを褒めるんですよね。ボールを持っている人間が中心ではあるんだけど、それ以外の選手がボールを持っている人がどれだけプレーしやすく動いているかもしっかりと見ているんです。瞬間瞬間で状況が変わりますが、その時に何をするべきか、今ボールを持ってなくてもどこに走り込むべきかの状況判断を見ているんです。

なので、点を取ってる人ばっかりだけでなく、この人がいなければ成り立たなかったというような汗かき役もしっかり評価をしてくれていました。

ただ、やはり最後は勝てるかが一番重要ではあるんですけどね。一般社会で言うと、どんなに努力しても売上につながらなかったら会社を運営してくことは出来ないという話と近いですけど。

− 一般の会社でも目立たないけど、実はすごく貢献している人っていますよね。

一般社会でもそういう人が評価されて欲しいなと思いますね。

サッカーでは、試合で点を取った選手がヒーローインタビューを受けることが多いですけど、「あのゴールが生まれたのはお前とお前のおかげだよ」とちゃんとトップが言えることは大切だと思いますね。

− いやー、共通項は多いものですね。まだまだ話聞きたいのですが、いつの間にかこんな時間になっていたので、最後に羽生さんの今後の抱負・展望を聞かせてください。

やはり、選手たちは不安を抱えながら競技をやってるので、社会性を身に付けさせるという支援も含めて、その不安の部分を取り除いてあげて、競技に集中出来る環境を作ってあげたいです。

その上で、アスリートの価値を明確にして、企業に対してメリットを提示することで、全員にとって良い取組みを生み出していきたいです。それがサッカーに対してもそうですし、社会に対しての恩返しにもなると思っているので。

− 今日は非常に面白い話をありがとうございました。また、話を聞かせてください。

ありがとうございました。

羽生直剛さんの写真

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