転職業界20年のプロ、オブリージュ代表の大川章さんに、はじめて転職する人に向けて「転職活動のやり方」を解説していただくコラム。第12回は「企業分析」についてです。求人票のポイントを見分ける企業分析のやり方についてお話しいただきました。
大川章
ベンチャー企業、外資系企業を中心としたサーチエージェントであるオブリージュ株式会社の代表。テクノブレーン株式会社、ジェイエイシージャパン(現ジェイエイシーリクルートメント)、オムロン系の人材会社等を経て現職。 千葉県在住。
企業分析が必要不可欠!良い転職のためにチェックすべき4つのポイント
企業分析でチェックすべき媒体
ーどのような会社で働くかを決める際に企業分析がすごく重要になる気がするんですが、どんなことを調べておくといいのでしょうか?
売上や利益・会社の規模といった定量の情報。そしてビジョンやミッション、社風、ビジネスモデルといった定性の情報ですね。
ー定量・定性面での情報を集めるには、どの媒体がおすすめですか?
一番は当然、各企業のウェブサイトです。また転職サイトには、分析や転職成功者の話も書いてあります。口コミはリアルな意見なので、それもおすすめです。
経理とか財務とかコーポレート系の職種の人は有価証券報告書とかを見ないといけないけれど、若手の方が転職するときは基本的なもので十分だと思います。
あとはPR Timesっていう企業のプレスリリースを配信しているサイトがあるんですけど、そこで自分が受けたい企業のニュースが載っているかチェックするのもいいですね。
株価については、掲示板とかもあるので、そこでなぜ株価が暴落したのかとかも書いてあるので参考にしてみるといいと思います。
コーポレートサイト、転職サイト、口コミサイトなどをチェックして、さらに同業他社、ライバル企業も一緒に分析するといろいろ見えてきます。
ー業界や競合について知るには、どんな媒体を使えばいいでしょうか?
「業界動向」というサイトがあるんですけど、これを見れば業界の成長率や企業の売上高ランキング、ニュースが載っているのでおすすめです。
業界動向URL:https://gyokai-search.com/2nd-genre.htm
あとは有効求人倍率をチェックしておくといいと思います。一番求人が多い業界がわかる。このコロナ禍でIT通信はニーズが高まり、異常なほど求人が多いですね。
以前、転職先選びをする際には市場価値が上がるか、活躍の可能性があるかを見るのが重要とお話したように、定量面・定性面でその辺りを見てもらえればと思います。
市場価値が上がる企業の見分け方
ー市場価値が上がりそうかを調べるには、どうすればいいですか?
これから伸びていく会社かを見ていくといいと思います。
北野唯我さんが書いた「転職の思考法」という本があるのですが、ここには全ての仕事はライフサイクルに沿って生まれては消えていくという「仕事のライフサイクル」という考え方が書かれています。
参考文献
https://www.amazon.co.jp/このまま今の会社にいていいのか-と一度でも思ったら読む-転職の思考法-北野-唯我/dp/4478105553
仕事のライフサイクルとして、「1.ニッチ2.スター3.ルーティンワーク4.消滅」があります。
ニッチというのは、まだ始めたばかりで他にやっている人がいないので代替される可能性は低い。スターっていうフェーズになると、その会社の業績が伸びて上場するようになり、仕事も少しづつ再現性を増す段階。だからニッチ・スターあたりが、いわゆるベンチャー企業ですね。
そして仕事の形態が決まってきて、誰でもできる仕事になる段階が3のルーティンワーク。それが最終的には仕事がAIに置き換わり、消滅する。
大事なのはニッチからスターあたりにある企業を分析しながら選んでいくこと。これから伸びていく会社や仕事を選ぶことで自分の市場価値も上がっていきます。
ー会社や仕事の価値が上がるから、自分の価値も上がるんですね。
連動すると思います。成長している会社や自分の活躍の場がある会社で2、3年働くことによって、年収も、自分の市場価値も上がっていきます。
それから3、4年後は、かなり選択肢が増えるでしょうね。そこを目指すべきだと思います。スター系の企業、つまりこれから伸びていく会社は、売り上げも増える。そうすると企業は働きやすい環境をつくろうと努力しますから、環境も良くなります。
ー確かにそうですね。
活躍の可能性があるかっていうのも大事なポイントだと思うんだけど、これをチェックするには、面接の時に「自分のように入社して、活躍している人がいるか」「働いている人の経歴と今、どんな仕事をしているのか」を必ず聞きましょう。
同じような境遇の方と直接お話しできれば、さらにいいですね。
求人票で確認すべき4つのポイント
ー求人票で注意したほうがいいポイントはありますか?
特に見ていただきたいのは、募集背景です。必ずチェックするか、面接で聞く。もしくはエージェントさんに聞いてもらうといいと思います。
募集背景には2つあります。成長と事業拡大のために、人材を大幅に増員したいパターンがひとつ。もうひとつは、退職者がいるためリプレイスで再度募集するパターン。
要するに増員なのか、欠員補充なのか。どちらなのかを確認することで、攻め方が変わります。
ーどう変わるんですか?
増員の場合は、企業としては多少ハードルを落としても成長したいパターンが多い。だから未経験だとしても、チャンスがあります。
欠員補充の場合は、辞めた人との比較になります。前の人と同じくらいのスペックは譲れない。欠員補充は、その求められるスペックが明確です。
募集背景をチェックすることで、即戦力の人を探しているか、未経験でも可能性があるか、という判断がしやすくなりますね。
ー他に求人票で重要なポイントってありますか?
とにかく仕事内容が自分に合っているかどうか。ここが最も重要です。その仕事をするイメージができなければ、その企業は合っていないのかもしれません。
ポジションも重要ですけどね。スタッフなのか、マネージャーなのか、今の自分にそのポジションはできるのかも見ておかないとミスマッチになる可能性もあります。
ー対象者、求める人材像の項目でもどういう人を求めているかは分かると思うのですが、求める人物像の項目では、どんなことに気をつければいいですか?
求める人物像の項目には企業の本音が出てくるので、裏読みも必要です。
実は、エージェントがもらう求人票には、具体的なペルソナが書いてあります。これはあまりオープンにはしていませんが、企業側が、本音としてはどんな人材が欲しいかがわかるわけです。
例えば、エージェントがもらう求人票には「こういう会社にいて、こんな経験がある人」という風に書かれていたり、具体的な企業名を書いていることもあります。
「ベンチャーマインドの人」とか、求める人材によっては、下手するとブラック企業の可能性もあります。そこは本当に気を付けて判断しなければいけないと思います。
ー人柄重視のところであれば、業界に興味がある人なら採用されやすいですか?
ポテンシャル採用であれば、素直で何事にも前向きに思考のできる人、というペルソナが出てくることもあります。
でもこれも裏を返すと、洗脳されやすいパターンになりがち。そういう人は、ブラック企業も欲しがります。残業も、「この業界では当たり前なんだ」と思うような人ですね。結局頑張って頑張って、メンタルを病んでしまうことも十分あり得ます。
なので、その企業がちゃんとした成長企業で安心できるかは、エージェントさんとディスカッションしましょう。問題ないと思ったら受ける。何となく危ないなと思ったら受けない方がいいと思います。
ー勤務時間とか、福利厚生も重要だと思うのですが、どういうポイントがありますか?
時間外手当が支給されるのかどうかをチェックしておくべきですね。
給与に見込み残業分が含まれていることがあるんですけど、その時間を超える時間外労働分については、追加で支給されるのかどうかも見る。書いていない場合は、サービス残業の可能性もあり得ます。
あとは見込み残業が45時間を超えるのは今時ないから、ブラック企業だと思った方がいいと思います。
福利厚生では、「各種社会保障完備」というのは、労働法で決まっているので当たり前なんですよ。実際は交通費、食事の補助、社内制度などいろいろあるはずです。
なのにそれだけしか書いてなかったら、ブラック企業とまでは言い切れないですが、あまりよくない企業なのかなと思います。
ー衰退気味な企業だったら、余計危ないですね。
衰退気味な企業だったらもしかしたら削られているのかもしれませんし、そういう社風や文化じゃないのかもしれないので、そういうところも必ずチェックしましょう。
あとは今の働き方として、リモートワークを実施しているかも聞いたほうがいいですね。場合によっては必要なことがありますよね。
良い転職のためには企業分析が必要不可欠
ー企業分析はどこまでやればいいのでしょうか。
定性、定量は必ず見るというのと、内定のためにはしっかり納得できるまで落とし込んでおかないと、面接でも志望動機とかをしゃべれませんよね。
だから、この会社で一緒に仕事がしたいなと思えるぐらいまで企業分析をしておくのが重要だと思います。
求人票一つでも、企業の本音も何となく見えてくるので、裏側も予想をしながら、エージェントさんとディスカッションして進めていくことをおすすめします。
そして、この会社だったら自分に合うと納得してから応募するのが良い企業分析のやり方だと思います。
企業分析をしたからこそ企業の魅力が見つかったり、この部分は自分には合わないなというのが分かってくると思うので、企業分析は大事ですよね。
ー企業分析の具体的なやり方や注意すべきポイントについてよく理解できた気がします。ありがとうございました!